極彩色

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タイトルすら浮かばない雨の話

(あちゃー)
フランスは、ビルのエントランスを出て、車寄せの屋根の下で、サラサラと降り続ける雨を見て、足を止めた。
土砂降りではないけれど、小降りでもない。このまま意を決して雨の中へ繰り出したとすれば、それなりに、服は水分を含んでぐっしょりと濡れてしまうだろう。
フランスは傘を持っていなかった。
タイミングが悪いというのか、今着ているのは、先日新調したばかりのスーツで、この雨の中、無理に帰って濡らしてしまうのも、少し惜しかった。
幸い、この後予定があるわけでもなく、雨がやむまで、とはいかなくても、小降りになるのをこのまま待ってもいいかな、と思えるくらいには余裕があったフランスは、ぼんやりと雨を眺めた。

雨脚は強くなることも弱くなることもなく、淡々と降り続ける雨を見やりながらしばらく経ったころ、コツンコツンと石畳をたたく足音がフランスに近づいてきた。
よぅ、とかけられた声に顔を向ければ、右手に黒い傘を携えたイギリスがいた。
「なに、おまえ、傘持ってねぇのかよ、フランス」
からかうでも呆れるでもなく、純粋に驚いて小さくこぼしたイギリスに、フランスは苦笑する。
「あー、うん。忘れた」
フランスは、視線をまた雨へと移した。
隣でイギリスがフランスの様子をうかがっているのがわかる。
「もうちょっと、待っているつもり」
「雨、止まないらしいぞ」
言外に、いつまで待つつもりなんだと気遣われて、戸惑う。そういうの、いいのに。
フランスにつきあっているつもりなのか、イギリスはそこから動かなかった。
イギリスの真意はわからないけれど、これはフランスの自己満足だ。帰ろうと思えば帰れるし、方法だっていくらだってある。それでも、こうやって雨を眺めていたのは、フランスがそういう気分だったからだ。
だから、フランスのことなど気にせずに早く帰ればいい、と思った。

動いたのはイギリスだった。傘を開いて、雨の中へ一歩踏み出す。
ようやく帰るのかと思っていると、おい、と声がかけられたので、フランスは顔を上げた。
こちらを見ていたイギリスと目が合う。眉を寄せて、険しい顔をしていた。
「入れよ、入れてやる」
イギリスはそう言うと、ぷい、とそっぽを向いた。
「え、いいよ、こんなことで借りつくりたくないし」
フランスの言葉に、イギリスは下を向いて、苛ついたように右足でザリと地面を蹴った。
「…じゃない」
ぼそ、とイギリスが何か言ったけれど、雨の音に消されてよく聞こえなかった。
「え?」
フランスが小さく聞き返すと、イギリスはバッと顔を上げた。
「だから!これは、貸なんかじゃねぇんだよ!俺がしたいからしてるんだ。お前はごちゃごちゃ考えるな。俺が入れって言ってるんだから、早く来いよ!」
イギリスは言っていて恥ずかしくなったのか、早口でまくしたてた。
フランスは、最初ぽかんと呆けていたが、怒ったような顔をして口を噤んでいるイギリスをみていたら、じわじわとおもしろくなってきて、顔が緩んだ。
「おい」
不機嫌そうに催促を入れたイギリスに、フランスは雨の中へ踏み出した。
イギリスの隣にならんで、雨の中を歩く。
によによとしていたら、イギリスににらまれた。
「お前、もっとそっちいけよ」
「え、やだよ濡れるじゃん!」
一人用の傘に二人の男。お互い肩がはみ出ていたけれど、楽しくなったフランスは、イギリスの肩に自分の肩をトンとぶつけて、笑った。

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